マーケティングコラム
*本記事では、BtoB企業におけるペルソナ作成に向けたプロセス、顧客データの収集方法を具体例とともに解説します。
*こんな方にお勧めの記事です。
- マーケティング担当者
- 営業担当者
- 営業プロセスの改善を望む方
- デジタル変革を進める担当者
ペルソナ作成は、顧客理解を高めるために使われる手法です。BtoB企業において、ペルソナ作成はマーケティングの成功に欠かせませんが、最近のビジネス環境や技術の進化に伴い、ペルソナ作成のアプローチも変化しています。新しいデジタルツールやデータ解析の進歩を取り入れることで、より詳細で効果的なペルソナが効率よく作成できるようになっています。
今回は、ペルソナ作成の具体的な手法や成功のポイントをご紹介します!
目次
ペルソナ(persona)とは直訳すると「人格」という意味で、商品やサービスなどを利用する顧客像を具体的に描いたマーケティングや営業活動における概念です。ペルソナは、企業が製品やサービスを開発し、マーケティング戦略を立てる際に、具体的な顧客のニーズや行動パターンを理解しやすくするために使用されます。
ペルソナの構築には、主にデモグラフィックとサイコグラフィックという、以下の2つの側面が考慮されます。
- ・デモグラフィック(人口統計学的)
- 年齢、性別、収入、職業など
- ・サイコグラフィック(心理的・行動的)
- 顧客の心理的特性、ライフスタイル、価値観、趣味嗜好など
BtoBとBtoCでのペルソナの立て方の違い
BtoBとBtoCでのペルソナ設計にはいくつかの違いがあります。
BtoCでは個人のニーズや感情に左右され、検討期間も短いのが特徴です。衝動買い、ブランドやパッケージの魅力で購入してしまうこともあります。そのため、ペルソナ作成においては、デモグラフィックとサイコグラフィックの両方に焦点を当て、その個人の属性や行動パターンに基づいて構築されます。
一方で、BtoBは顧客ごとに目的と課題があり、合理的な判断に基づいて購買が行われます。また、購買プロセスが複雑で組織内の複数のステークホルダーが関与し、検討期間が長いのが特徴です。ペルソナ作成時は、購買担当者個人だけではなく、企業の特徴も考慮して設計します。そのため、ライフスタイルや価値観などのサイコグラフィックは設定せず、企業規模や役職、決裁権、購買プロセスや関係者などの視点を加えアプローチします。
ペルソナとターゲットの違い
ペルソナとターゲットは、マーケティング戦略において異なる概念です。
前述したように、ペルソナは、特定の顧客像を具体的に描写したものであり、BtoBにおいては、その人物に関するデモグラフィックや企業情報、課題感などを包括的に把握します。
ターゲットは、製品やサービスを提供する際に、重点的にアプローチする対象グループや市場(業界別、企業規模別、地域別など)を指します。これは、広告、プロモーション、販売戦略の対象となる顧客の大まかな範囲を示します。
ペルソナはターゲットの一部であり、ターゲットをより人間味のある形で表現する手段です。
それでは、具体的なペルソナ設計をどう行えばよいか考えてみましょう。
BtoB事業でのペルソナを構築する際には、以下の要素を中心に自社のペルソナに合った項目を決定しましょう。項目数は多ければよいというものでもありません。また一度に完璧なペルソナが作成できるわけではないので、まずは定期的に項目を見直していくつもりで始めるとよいですね。
<ペルソナの項目例>
・ビジネス上の課題
・業種
・企業規模
・担当部署・役職
・決定権の程度
・意思決定プロセス
・意思決定に影響を与える要因
・タッチポイント
■ ペルソナ設計シート(PowerPoint 62KB)
データ収集
ペルソナを作成するためには、まずデータ収集から始めます。信頼性のあるデータは効果的なペルソナ構築の基盤です。データ収集にもさまざまなやり方があります。既存顧客をモデルにすると効率がよいので、既存顧客のデータを集めてみましょう。そのための手段をいくつかご紹介します。
既存顧客データの分析
既存顧客データの分析は、ペルソナ作成において不可欠です。自社サイトのアクセス分析(流入キーワードやサイトでの行動)で、顧客のニーズをある程度把握できます。また、CRMやMAなどのマーケティングツールを導入している場合は、合わせて分析することでより精度の高い情報を得ることができます。
営業部へのヒアリング
直接顧客と接する営業担当者からの情報は貴重です。下記を参考に、営業部へのヒアリングを実施してみましょう。
- ・顧客の課題を把握
- どのような課題が特に重要か、新たな要望があるか
- ・購買プロセスと意思決定者
- プロセスや意思決定者を明確にし、どう最終決定が行われるか把握
- ・営業活動の成功事例
- 成功事例や失敗事例から、どのようなアプローチが有効だったのか
- ・競合情報の収集
- 競合の製品やサービスに対する顧客の評価や違いに関する情報
- ・市場トレンド
- リアルの現場で起こっているトレンドや変化
データに加えて、営業部へのヒアリングを実施することで、データだけでは実現できない立体的な人物像のペルソナに仕上がります。
既存顧客インタビュー
可能であれば、顧客へのヒアリングができると、より精度の高いペルソナを作ることができます。対象企業は自社にとって理想的な顧客や売り上げが上位の企業が良いでしょう。
営業担当者ではなくマーケター自身でヒアリングに行くことで、第三者視点での有効なインタビューができることもあります。ヒアリングのポイントは営業部へのヒアリングと同様ですが、下記も意識するとより有意義な時間となるでしょう。
- ・質問の準備
- 事前にインタビューの目的やおおよその質問項目を伝えておきましょう。
- ・オープンクエッション
- Yes or Noで答えられない質問形式にしましょう。
- ・関係の構築
- インタビュー前にリラックスした雰囲気を作り出し信頼関係を築けるようにしましょう。
- ・利用状況のフィードバック
- 現在の製品やサービスの満足度を確認しましょう。普段営業担当者に言いづらいことも答えてくれるかもしれません。
もし、直接インタビューが難しければ、アンケートを実施する方法もあります。インタビューより情報量は減りますが、その分、回答者の数が増えることも期待できます。
セグメンテーション
データ収集後はセグメンテーションを行います。データ収集で得られた情報を分析し、共通の特徴を持つグループに分類します。これにより、異なるセグメントごとにターゲットのペルソナを構築することができます。セグメンテーションは、単一のペルソナではカバーできない多様性に対応し、マーケティングメッセージをより的確に調整する手段となります。これにより、企業は異なるセグメントに適した戦略を検討・展開し、より効果的な顧客エンゲージメントにつなげることができます。
プロファイル作成
さて、いよいよ大詰めの、プロファイル作成です。
具体的なペルソナを形成し、マーケティング活動の指針にするようにしましょう。いくつか事例をあげますので参考にしていただければと思います。
■セキュリティソフトA社の顧客ペルソナ
- ・IT企業X社のセキュリティ担当者
- 石田裕太(仮名)
- ・企業規模
- 大規模(従業員数5,000人以上)
- ・役職
- IT事業部セキュリティ担当マネージャー
- ・ビジネス上の課題
- ゼロデイ攻撃やランサムウェアといった高度なセキュリティ脅威への対策を行いたい。業界や国際的なセキュリティ規制へ遵守したい。
- ・ニーズ
- ユーザーフレンドリーで管理が容易なソフトウェアを導入したい。
- ・意思決定に与える要因
- 技術力、運用の容易さ、コスト削減。
- ・タッチポイント
- セキュリティ関連のオンラインフォーラムや業界カンファレンスに積極的に参加。LinkedInや業界メディアを通じて最新のセキュリティ情報を入手。
このペルソナをもとにしたマーケティング戦略では、ペルソナの石田裕太氏(仮名)が重視する安全性、最新技術への対応、使いやすさなどに焦点を当てた製品開発や広告が展開されるでしょう。また、同時に、業界フォーラムやカンファレンスでの積極的なプロモーションや、LinkedInなどを通じた専門家同士のネットワーキングが推進されることが考えられます。
■自動車部品の製造業B社の顧客ペルソナ
- ・自動車メーカー調達担当者
- 山田 裕介(仮名)
- ・企業規模
- 大手自動車メーカー
- ・役職
- 調達部マネージャー
- ・ビジネス上の課題
- 部品の供給が安定していることが必要。生産ラインの停滞を防ぐためには信頼性の高いサプライヤーが求められている。部品のコストを削減し、メーカー全体の利益を最大化する必要がある。
- ・ニーズ
- エンドユーザーの望む新商品開発のためのアイデアがほしい。
- ・意思決定に与える要因
- 納期、価格
- ・タッチポイント
- 業界紙や最新ニュースで情報収集。また業界イベントやセミナーにも積極的に参加。
マーケティング戦略は、業界標準の資格や品質管理の体制をアピールし、信頼性を高めます。また、自動車メーカーのニーズやトレンドを把握して、それに合わせた製品やサービスの提案を行います。カスタマイズ可能なソリューションを用意し、柔軟性をアピールポイントとします。自動車産業や技術トレンドに関する情報を提供するコンテンツを発信します。ブログ記事、ホワイトペーパー、ウェビナーなどを通じて、業界の知識と専門性をアピールポイントとする。などが考えられます。
チームへの共有とフィードバック
最後に、チームへの共有とフィードバックを行いましょう。フィードバックにより、さらに精緻なペルソナに仕上がります。そして、最後にチーム全体で共有することで、統一認識が生まれ、目標や戦略に向けて一貫した取り組みを行うことができるようになります。
顧客や営業部門へのヒアリングでペルソナを設計していくのが良いやり方ではありますが、ペルソナ作成には時間と費用がかかることも事実です。「時間やリソースが足りない!」あるいは「アイデアに行き詰った!」などという場合には、生成AIを使ってみるのもひとつの手かもしれません。
ペルソナ作成における生成AIの活用として、例えばこのようなことが考えられます。
・ユーザーインタビューの実施
生成AIにペルソナになりきってもらい、インタビューを行うことで、新たな課題やニーズのヒントが得られるかもしれません。その場合、ターゲットに関するデータを読み込ませることで、ターゲットの興味や関心、課題をヒアリングしてみましょう。
・プロファイル作成
プロファイル作成に向けた文章作成にも使えます。ペルソナのキャッチコピー、概要、ニーズなどを言語化するのに利用してみましょう。
・ユーザーのイメージ画像の作成
ペルソナをイメージしやすくするために、プロフィール画像を作ることもおすすめです。画像生成AIを使ってよりイメージを膨らますこともできます。
生成AIはいわば業務の相棒。あまり深く考えずに、気軽に相談してみると何か新しい道が開けるかもしれません。
ただし個人情報・秘密情報・機密情報の取り扱いには注意が必要です。生成AIに学習され、他の企業やユーザーに流出する可能性がありますので充分留意ください。
このように、BtoB企業におけるペルソナ設計は、顧客の理解とターゲティングにおいて重要なステップです。データ収集やユーザーインタビュー、さらにはデジタルツールも活用しながら、ペルソナをより具体的かつ魅力的に仕上げましょう。そして、作成時のコツをしっかりつかみ、各企業の戦略にあったペルソナを作成し、マーケティング活動に生かしていただければと思います。
次回は、BtoB企業のデジタルマーケティングを推進させるコツについて、ご紹介します。どうぞお楽しみに!
■過去のコラムは以下からご覧ください。
Vol.1 オンラインイベント開催、成功の秘訣とは?
Vol.2 BtoB企業にとってのマーケティング戦略とは?
Vol.3 警視庁も導入した「メタバース」の最新動向とは?
Vol.4 Webサイトのセキュリティ、大丈夫?
Vol.5 BtoB企業のデジタルマーケティング成功を支える、「SWOT分析の基本とやり方」とは?
*本記事は、2023年12月に作成、公開しました。記事の内容は当時のものです。